健康診断の勘定科目はどうする?経費の処理についても説明します!

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従業員の健康診断費用は福利厚生費で処理しよう


法人においては、健康診断にかかった費用は基本的に福利厚生費で処理します。従業員の健康を守り、心身ともに万全な状態で業務に臨んでもらうためです。
レクリエーションやメンタルケアなどと同様であり、各種社会保険への加入義務と並列にすることも可能です。
また、健康診断を役員のみが受ける場合には費用の扱いが変わります。ただし、従業員と同様に役員も健康診断を受ける場合、経費で計上できる場合もあります。
健康診断の費用を経費にするには、いくつかの条件があります。自社がどのように処理するのか、ルール化をしておくことをおすすめします。

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従業員を雇ったら健康診断は義務になる


会社が従業員を1人でも雇用した際は、年に一定以上の回数で健康診断を受診させることは義務です。
これは、労働安全衛生法で定められたものであり、事業主が労働者、すなわち従業員に対して健康診断を実施させなければならない旨の記載があります。
そのため、企業の大小にかかわらず、従業員に健康診断の機会を与える必要があります。
福利厚生には以下の2種類があります。

・法定福利厚生
これは、各保険関係の法律により定められた福利厚生で、健康保険や厚生年金保険、介護保険などの社会保険に加え、子育て拠出金なども挙げられます。

・法定外福利厚生
上記のような各保険関係のもの以外の、各種手当や退職金、レクリエーションなどの福利厚生が、こちらに含まれるでしょう。

主に、従業員の心身の健康や生活に関する補助の役割を果たす内容で、健康診断は法定外福利厚生として健康を守るものの一環とみなされます。

健康診断を受けさせないとどうなるか

会社が従業員に健康診断を受けさせない場合、法律に抵触します。この場合、処罰として50万円以下の罰金が課せられます。
法律で健康診断の受診が義務付けられているのは、従業員の健康を守ることが会社が負うべき責任であるという考え方のためです。

労働安全衛生法では従業員に対しても健康診断受診の義務が定められていますが、従業員が健康診断を受けなかった場合には、罰則は発生しません。
ただし、従業員が健康診断を受けない場合、安全配慮義務違反となるため、責任は会社が負います。
そのため、会社は従業員に対して、以下のように健康診断を受けやすい状況を用意すると良いかもしれません。

  • 従業員が健康診断を受けやすい場所や環境の病院で行う
  • 健康診断に行くために業務時間の調整を行う
  • 場合によって、健康診断のための有給休暇を認める
  • など

 

健康診断の対象者は誰?

一般的な健康診断を受けるべき対象者には、以下のような条件があります。

  • 会社に正規雇用されていること
  • パート、アルバイトで正社員と同等の就業時間があること
  • 派遣社員は、一定以上の就業時間があること

 
なお、派遣社員の場合は、健康診断を受診させる義務を負うのは派遣会社です。

それぞれの詳細な条件は、「福利厚生費で処理するための条件とは?」の項で説明します。

正社員とパート・アルバイト・派遣社員の条件の差異については、2020年に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」により均一にするよう定められています。
正社員と同程度の労働を行う非正規雇用の従業員についても、正社員と同様の待遇とすべきという考え方です。

健康診断の費用は経費として扱えるのか

労働者の中でも、法人と個人事業主では健康診断の費用を経費計上できるか否かは異なります。こちらでは、法人と個人事業主での健康診断の取扱いについて説明しましょう。

法人の場合

法人では、健康診断にかかる費用は福利厚生費として経費計上できます。
これまで説明したように、一定の条件を満たす従業員に対して、健康診断を受けさせる・受ける義務が生じます。

そして、健康診断にかかる費用は会社が負担しなければなりません。その代わり、費用が経費計上できるため、課税所得を圧縮できます。

個人事業主の場合

個人事業主の場合、健康診断にかかる費用は福利厚生費として経費に計上できません。そのため、基本的に個人事業主は自己負担で健康診断を受けます。
さらに、従業員が健康を害した場合には休業補償や傷病手当金が支給されますが、個人事業主にはこのような補償がありません。
個人事業主は自身の健康は自ら守り、収入はもちろん仕事のクオリティ、モチベーションを自身で維持する必要があります。

つまり、個人事業主の健康診断は、基本的に自己責任とみなされます。

一部の例外や補償について

ただし、健康診断により重篤な傷病が見つかり、一定以上の医療費がかかった場合は、健康診断の費用についても医療費控除に含められます。
また、任意で生命保険に加入している場合は、生命保険控除が受けられるほか、契約内容によっては所得補償保険を受給可能。

個人事業主で家族を従業員としている時は

個人事業主で家族を従業員とする場合、青色事業専従者に対しても、健康診断の費用を経費にはできません。
青色事業専従者の取扱いは、基本的に個人事業主本人と同様と考えます。

事業主本人は健康診断を受ける義務はない

個人事業主には、労働安全衛生法での取決めは適用されません。
個人事業主には健康診断を受ける義務が定められておらず、経費計上をする必要がないとされています。

ただし、上記で説明したように個人事業主は自身で健康を守らなければ、傷病で収入がなくなることにより生活に支障が出るケースも考えられます。
そのため、個人事業主に義務はなくとも、健康診断は年に1回程度受けると良いでしょう。

個人事業主・フリーランスが健康診断を受けるべき理由についてはこちらも参考に>>>
フリーランスの健康診断の受け方|メリットから金額の目安まで解説

個人事業主の健康診断の選択肢

個人事業主は、健康診断の義務がないため、その機会を自身で作らなければなりません。では、個人事業主が健康診断を受ける方法には、どのようなものがあるでしょうか。
以下では、個人事業主が健康診断を受ける選択肢について紹介します。

①地方自治体の健康診断

地方自治体では、健康増進法のもと自治体に居住する人に向けて健康診断を実施しています。そのため、個人事業主は地方自治体が実施する健康診断を受けるのが近道です。
健康診断の案内も、自治体から住民に随時送られ、受診券などが封入されていれば健康診断を受けるハードルも下がるかもしれません。
また、指定の医療機関で受ける場合、自治体が費用を一部負担する、自治体が補助を行うなどの処置もあるため、安価もしくは無料で受けられる点もメリットです。

②加入している健康保険組合の健康診断

業種ごとの健康保険組合に加入している個人事業主は、その組合が実施する健康診断も受けられます。
この場合、健康診断の費用は健康保険組合が一部負担するため、個人事業主の負担額は比較的安価です。
ただし、業種によって健康保険組合が存在するか否かは変わります。自身の業種に健康保険組合がない場合は、フリーランス全般が対象の組合や協会に加入すると良いでしょう。

③自費の健康診断

個人事業主自身で、健康診断を受ける医療機関を選んで自費で受けることも、ひとつの方法です。
この場合、医療機関の指定はなく任意で選べるため、信頼できる主治医に相談すると良いかもしれません。
さらに、受診項目の選択肢も多く、体の中で気になる箇所だけを受診する方法もあります。

しかし、健康診断にかかる費用はすべて自己負担であるため、資金繰りに考慮して受診することをおすすめします。

④商工会議所の健康診断

法人・個人にかかわらず、商工会議所の会員になれば健康診断を受けられます。
各商工会議所では、事業者に向けた様々なサービスを提供しており、健康診断をはじめとした健康サポートや補償も積極的です。
また、会員優待や共済加入により、健康診断の費用も安く抑えられるため、各商工会議所の会員になるのも良いでしょう。

健康診断の会計処理はどうすればいい?


健康診断の費用を経費計上する場合、会計処理の方法を知る必要があります。経理上での処理方法を理解すると、正しく経費計上できます。
こちらでは、法人の場合と個人の場合に分け、それぞれに行うべき会計処理の方法について説明します。

健康診断は福利厚生費で処理することができる

前述したように、法人の場合は健康診断の費用を福利厚生費として計上できます。記帳の際の勘定科目は、下記のように借方に福利厚生費、貸方に支払い方法を記載します。

ここでは、従業員全員の健康診断の費用10万円を支払ったとして、記帳方法の例を紹介します。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年〇月〇日 健康診断費(〇名分) 福利厚生費 100,000 現預金 100,000

この会計処理により、健康診断の費用がすべて福利厚生費として経費に組み込まれます。

福利厚生費で処理するための条件とは?

福利厚生費として計上できる条件は、健康診断を受ける義務がある人に対して費用を負担した場合です。
では、健康診断の受診義務は、どのような条件で発生するのでしょうか。

・正社員全員
会社に正規雇用される正社員は、必ず入社時と1年に1回の定期診断、さらに深夜勤務や身体的に重労働となる特定業務に就いた場合、従事する時と年2回の定期診断が必要。

・パート・アルバイトで以下の契約条件の人
パート・アルバイトの中で、契約が無期限か1年以上の契約で、正社員の所定労働時間の4分の3以上業務に従事している人は、正社員と同様の条件で健康診断の義務があります。

契約期間が6カ月以上1年未満、かつ正社員の所定労働期間の4分の3以上業務に従事している場合では、上記のような特定業務に就いた時のみ健康診断が必要です。

・派遣社員の場合はどうなるか
派遣社員の場合、派遣元の会社に健康診断を受診させる義務が発生します。

健康診断の義務がある派遣社員に対する基準は、1年以上・また週30時間以上就業していることなどが挙げられます。

福利厚生費で処理できない場合は給与や役員報酬として課税される

例えば、労働条件以外の以下のような理由では、健康診断の費用を経費に計上できません。

常識の範囲内を超えた費用がかかっている

福利厚生費として計上できる健康診断の費用は、常識の範囲で行うものに限るとされています。
例えば、高額な宿泊などがセットになった人間ドックの費用に関しては、福利厚生費として認められません。

これは、宿泊部分に関しては本来人間ドックと関連はなく、会社と提携していないレクリエーションとみなされるためです。

会社役員のみが健康診断を受けている

会社役員のみに福利厚生を適用することに関しては、会社法に定められた役員報酬に関する規定から、経費計上ができないとされています。

がん検診など高額な費用がかかった場合

がん検診などは、種類によっては高額な費用がかかりますが、健康診断の費用は基本的に経費計上できません。
特に、全身を調べる「PET検査」では、費用は10万円前後と高額ですが、これらは全額自己負担となります。

福利厚生費で処理できない時の考え方

従業員が、健康診断において常識の範囲外の費用をかけた時、もしくは高額となる健康診断を受けた時、これは従業員の給与として考えられます。
会社役員など特定の役職に就いている人のみが健康診断を受けた時も、給与もしくは役員報酬(役員賞与)とみなされるでしょう。
そのため、いずれの場合も給与所得であると考え、所得税が課税されます。

役員に限った健康診断については、役員賞与=不定期給与とされ、損金算入ができず税制上で不利になる可能性もあります。

個人事業主の健康診断の仕訳

個人事業主でも、従業員を雇用している場合は健康診断の費用を福利厚生費として計上できます。そのため、仕訳は法人の場合と同様です。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年〇月〇日 健康診断費(〇名分) 福利厚生費 100,000 現預金 100,000

そして、個人事業主自身の健康診断の費用は経費計上できないため、事業用口座から健康診断費用を負担した場合は、借方を事業主貸、貸方を支払い方法として処理します。
この処理は、事業用口座から個人用の費用を捻出したことを示すものであり、青色事業専従者においても同様です。

以下では、健康診断の費用が1万円かかった例とします。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年〇月〇日 健康診断費 事業主貸 10,000 現預金 10,000

健康診断の消費税はどう扱う?

健康診断の費用を福利厚生費として計上する場合、消費税が課税されます。これは、健康診断は治療の範疇(はんちゅう)ではなく、消費税の課税対象になるためです。

ちなみに、医療に関する行為で消費税が非課税となるものには、以下のようなものがあります。

  • 法律で医療と定められた治療全般
  • 自賠責保険などの給付対象となる治療全般
  • 療養にかかる費用
  • など

上記に当てはまらない健康診断は、非課税対象に当てはまりません。
これにより、健康診断の費用は医療機関からの課税仕入れの一環としてみなされ、10%の消費税が課せられます。

なお、法人でも福利厚生費として計上せず、給与もしくは役員報酬として処理した場合も、給与課税として消費税の課税対象となります。

まとめ

健康診断における費用が経費となるか否かは、法人か個人事業主であるかの違いのほかに、様々な条件があります。
法人の場合、健康診断の費用は基本的に福利厚生費として処理しますが、これが認められないケースも存在するため、条件をよく把握しておきましょう。

また、個人事業主ではそもそも健康診断の費用は経費計上できないため、仕訳や資金繰りの際には注意してください。

創業手帳冊子版では、福利厚生費に関する取扱いについても説明しています。経費計上できるか否かの条件も含め、ぜひ参考にしてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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